「現在、日本人の5人に1人は睡眠に問題を抱えているといわれています」と語るのは、今回取材した渋谷区・代々木睡眠クリニックの井上雄一院長。睡眠障害は多岐にわたり、睡眠障害国際分類では約90に分類されている。大きく分けると3つに分類される。
1.睡眠の量や質に問題があるもの。寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、いくら眠っても眠い。
2.睡眠の時間帯に問題があるもの。明け方まで眠くならずに、昼頃まで起きることができないなど、社会生活上望ましい時間帯に寝起きができない。
3.睡眠中の異常現象。睡眠中の異常な行動や運動、呼吸の異常など。
なかでも最近、増えているのが3の、睡眠中の呼吸障害「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」である。これは寝ている間に呼吸が止まる病気で、睡眠中にのど の筋肉がゆるむことで舌根などが落ち込んで、気道をふさぐために起こる。単純な往復いびきでなく、不規則であえぐようないびきをかいていたかと思うと、急 にやんで無呼吸の状態になり、再びいびきが始まる。そんな症状を指摘されたことがある人はこの病気の疑いがある。
「呼吸が止まるたびに覚醒するので眠りが浅く、熟眠障害が起こります。重症の患者さんの約3割には昼間の強い眠気があります。ただし、夜間の覚醒の 自覚がないことも多い」と井上院長。受診する患者は、家族が気付いたケースがほとんどで、一人暮らしの場合などは、なかなか気が付かないことも少なくな い。
睡眠中、1回10秒以上呼吸が停止する状態を無呼吸、呼吸の量が半分になる状態を低呼吸と呼ぶ。昼間に眠気を伴う人が夜間睡眠中、この無呼吸また は低呼吸が1時間に5回以上こる場合、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」と診断される。日中の眠気などの自覚症状がなくても、1時間に15回以上無呼吸や低呼 吸が起こる場合も同様だ。
睡眠中に何度も呼吸が止まるため、睡眠が浅くなり、昼間の眠気が強くなるのが症状。さらに寝不足だけでなく、体にもさまざまな影響が及んでくる。 呼吸が停止するので、血液中に供給される酸素の量も少なくなり、血管に負担がかかり動脈硬化を促進。心臓に血液が集中することで末梢の血管に血液が行き渡 りにくくなり、高血圧や心筋梗塞、心不全、脳血管障害の原因になる。ほかにもインシュリンに対する反応が鈍くなり、血糖値が下がりにくくなる耐糖能低下と いう状態になるなど、さまざまな病気のリスクが高くなる。
「閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、圧倒的に男性が多く、健康な成人男性の2〜4%、あるいはそれ以上とも考えられています。そのうち1時間に30回以 上無呼吸や低呼吸になる重症の人は30%ほど。重症の人が何も治療を受けないでいると死亡率が高くなることも分かっています」と井上院長は語る。その原因 は一概には語れないが、なりやすい傾向として、気道が細い、あごが小さい、下あごが引っ込んでいる、扁桃腺や舌が大きい、といった生来の形態的な特徴のほ か、肥満で気道が狭くなっているケース、甲状腺ホルモンの低下によってのどの組織がむくんで気道を狭めるケースもある。
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通常の呼吸。気道が開いて、空気が肺に自然に流れる |
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睡眠時無呼吸症候群。気道が閉塞し、空気の流れが妨げられる |